ノーダイレクション

食べかけの食べものを
テーブルのうえに
置きはなして
床に耳をつける
それが
君を待つということ
歌っているのは
肉の匂いをさせた
普遍性で
かたちは失っているの
だけれど
匂いはずっと
のこる
あたしはトマトを
手の中で
潰す
君を待つということ
じっと
鍵をなめながら
からだを
震わせる
ケイレン

サイレン

をつむると
雪山があって
なだれてくる
君が
キラキラ
その
ソーダ水のような
音のうえで
点滅する
安っぽい希望を
はやく
あたしの前から
どけて
君は
こなごなに
なった
暗闇
けして
もう
やってこない
けれど
君を待つということは
置きはなした
食べもの
さえが
憎しみを
もつ
ということ

タオルに
顔をおしつけて
笑った