わたしと(の)K-POP 佐野狂いまで ① SHINeeとジョンヒョン

私は、バンドと香港映画と総合格闘技やおいが好きな青春時代を過ごしました。映画の中で行われる男性同士の関係性を示す暴力や、ライブハウスで鈍器みたいな音楽で殴られるような経験が好きでした、もちろんそれらは今も好きです。その後、だいぶ大人になってからK-POPを聴くようになり、自分がアイドルにハマるなんてな、と思いながら、気づけばもう約10年が経とうとしています。大人になると、自分自身には変化はあまりないのに、周囲が驚くほどの勢いで変化していき、時間の流れがよくわからない、これが大人になりきれないということか、、と日々実感しています。

さて、私は現在、PRODUCE101JAPANに出演していた佐野文哉くんに、かなり異様なハマり方をして、先日佐野くんは脱落してしまいました。喪失感とともに、なぜか、走馬灯のように、いままでの自分とK-POPの歴史が思い返されたので、自分の狂いの供養のために、振り返ってみようと思い、これを書き始めました。おそらく、自分の話しかしないでしょう。いつもそうです。

 

私のK-POPは2NE1からはじまりました。そのときやらなければならないことが行き詰まっていて、逃避のためにYoutubeをぐるぐるしていたら偶然目に留まって、それぞれがまったく違う存在感のある女の子が4人、歌って踊っているのに興奮しました。4人ともがグループからそれぞれはみ出しながらグループとして存在している感じが、とても新しく、ブルドーザーで轢かれながらなおも存在するようなCLの声と、ミンジの周囲に干渉されないような存在感が好きでした。ものすごく危ういバランスでいっとき非常に強く存在するグループだったので、これがアイドルというものかな、と思ったのを覚えています。

 

 


2NE1 - UGLY M/Vss

 

 

その後、だいぶ長く付き合った恋人とこの先どうしていくのか、ということでだいぶ焦燥していたとき、なぜか、SHINeeのPVを繰り返し見るようになりました。私のK-POPへのハマりは、常に人生が困難なときに訪れるようです。なぜ、SHINeeだったのか、はっきりとはわからないのですが、私が横目でテレビで見ていたK-POPの男性グループというのは、大体がアピールされる肉体であるというイメージでした。特に日本のテレビの中ではそうで、2PMや東方神起など、常に威圧がある、という風に感じていました。ですが、SHINeeは、少し違っていて、あまり、こちらに圧を送ってこない感じがあり、ずっと見ていられるなと思いました。曲は、自分があまり深く聴いてこなかったタイプのものであり、新鮮だったし、なによりもそれぞれの声がかなり違っているのに絡まり合って聞こえるときにあらたに立ち現れるものがあり、ハーモニーということにはじめて興味を持ちました。ここではじめて、コンサートに行くようになります。はじめてのコンサートはさいたまスーパーアリーナでしたが、非常に良い席で、ほとんど遮るもののない状態で見ました。びっくりしました。ものすごい情報量で圧倒されたのもありますが、主役がいないなと強く感じました。アイドル自身も音楽もダンスもどれも主役ではなくて、そこに関わるすべての人で、なにかよくわからない空間を支えているような、不思議な経験でした。SHINeeのコンサートはSHINee Worldと銘打たれていますが、なるほど、だからworldなのか、だからアイドルはグループでいるのか、アイドルが提示するのは、表現じゃなくて、空間なんだ、そしてそこには思念しかないんだ、エウレカ!!となりました。

グループとは別に、ここで、私ははじめてペンである状態になりました。ジョンヒョンペンです。コンサートでのジョンヒョンは、魂が口からはみ出ているような、非常に座りの悪い様子があり、目を奪われました。ダンスも、狂ったように踊るときと、全然身体が動いていない時があって、どちらも、コントロールしきれていないような、同時にコントロールのみに注力しているような、ものすごい質量の葛藤とそこから出てくる内臓みたいな塊感のある歌に、ずぶっとハマってしまいました。バックステージでも、彼は終始、ここにどのように自分はいるべきなのか、なぜ、自分はここにいるのか、ということに答えがどうやってもでない、というような雰囲気を発散しているようにみえました。私は彼を通して、葛藤のさなかにありながら時間を過ごす人の有り様をみて、活力を得ました。これが、ある種、感情の搾取であり、人格の消費である、と、思ってはいましたが、そこまで、そのことを深くは考えていませんでした。なぜなら、距離が保たれていると思っていたからです。コンサートにはかなりの動員があり、日本では接触イベントもほとんどなく、マスター文化やペンサの様子などに深く触れなくても、毎回コンサートのソフトがリリースされ、十分な量のコンテンツがあったからです。また、単純に彼らの音楽を楽しんでいました。毎回練られたコンセプト、質の高いジャンルを横断する楽曲群、そこに、私が生身な人間を見出すジョンヒョンの声があり、非常に立体的なものとして、彼らの音楽に魅せられていました。(唯一の不満は日本での独自な活動で、コンサートも本音をいえば、全部韓国での曲であってほしかったのですが、ある時点までは韓国での曲をまとめて披露するコーナーもあり、本国でのコンサートもソフト化されるので、それで十分でした。)それは、いままでの音楽経験とは少し違っていて、自分にとっては新たなものでした。なので、彼から漏れでる葛藤も、どこかフィクショナルなものとして、楽しんでいました。人っておもしろいなあ、というように。それは、私自身の葛藤もおもしろいなあ、と思う通路のようなものだったのかもしれません。

また、この時点では、彼らのダンスを、ダンスそのものとして楽しむ、ということをあまりしていなかったように思います。テミンのダンスもSHINeeのダンスももちろん素晴らしいのですが、自分にとっては、このとき、葛藤への注視が非常に強かったので、ダンス自体を見ることはあまりなかった気がします。すなわち、ダンスは、彼らの葛藤がもっともダイレクトにあらわれ、かつ、その葛藤とどのように折り合っていくかというプロセスがあらわれる、一種、装置のようなものであり、そして、私はジョンヒョンの葛藤をもっともみていました。ほかのメンバーもそれぞれに葛藤があるようでしたが、常にその場においての注力があり、最適化されているように感じられ、それもフィクショナルな側面を強めていた気がします。自分にとって、ジョンヒョンという、人として、を強く感じさせる部分と、主役がおらずに進んでいく普遍性の高いフィクショナルな部分とが相まって、特別な、星が家の前に落ちてきたような存在でした。

 


SHINee - Excuse Me Miss

 

その後、ジョンヒョンは、ソロ活動をはじめ、表現するということで、常に葛藤を発散させている様子ではなくなってきたような気がしました。グループにおける役割も、求心力のあるインパクトとなる発声、というだけでなく、後景として広く広がるような存在にもなってきました。ただ、彼のソロ活動の曲も、非常に音楽的な意義というか、自分の曲が現在のムーブメントの中のどこに位置づき、どのような現在性があり、どのように受け取られるのかが強調されるなかで、彼の葛藤をあえてフィクションとして異化するようなところがあった気がします。彼のソロコンサートのライブビューイングを見に行ったときに、私は彼に南の島とか、北極をあげたいな、と思いました。そういうあげられるはずもないものを、あげたいなと思うような、気持ちがわいたのは、多分、その時点の彼の答えが、あったような気がしたからです。彼は、ずっと、そのとき、そのとき、何度も、自分の答えを出し続け、けれど、そこにいられず、また、次の答えを出し続ける、ということをしていたように思います。そして、だんだんと、それが明確になってきたように、感じていました。

 


JONGHYUN 종현 '좋아 (She is)' MV

 

彼が亡くなったとき、まるで、私がフィクションとして楽しんできたことが、最も凄惨なかたちで現実になったような気がして、自分の楽しんでいたことにも打ちのめされましたし、アイドルという概念が彼らにあたえる拘束について、考えざるを得ませんでした。その前にオニュが書類送検されたこともあり、グループとしての揺らぎが生じたときにも、拘束について考えていたので、余計に、強く、衝撃がありました。いまも、どのように、そのことを考え、自分に、どう落とし込むのか、はっきりしていません。ですが、生きているものの人生、いつか死ぬものの人生は、続かざるをえません。そのなかで、わたしはSHINeeとジョンヒョンに関していえば、その時々の答えを、みてきたな、と思います。その時々の答えは、必ず、変遷し、ときに裏切られ、生きるためには、また、その時の答えを出すしかありません。そのように思えば、彼らの営みも私の営みも、輝くし、そこについえるものがあっても、それも答えだろうと感じます。私がある側面においては、搾取や消費として、彼らに接したことはまぎれもない事実であり、それらの総体が害になる、ということはあるでしょう。彼が亡くなって、SMのグループをどのように見たらいいのかわからなくなり、私のK-POPとの付き合いもだいぶ変わりました。ですが、まだ、離れがたいのは、同時に、人がいれば、常にstruggleがあり、それが昇華される場がある、という希望を、そこに見ているからではないかと思います。

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