subtle


からだであることが
もうずっとさびしくて
胸が鐘のように
鳴って割れたかと
思ったのだけれど
いちめんの肌色しか
みえない


だれかが
わたしのこと
おもいだして
ぼんやりしている
(痛い)
わたしは
きみのこと
おもいだして
ぼんやりしている
(痛い)


わたしはわたしのことだけしか
きみはきみのことだけしか
傷つけられない
と言ったよね
嘘だよ
わたしが
今日ただ
眠りにおちることが
きみを傷つける
きみが
明日
朝起きて
でかけていくことが
わたしを傷つける
けれど
傷ついているから
どの夜も眠り
どの朝も目覚め
うたのように
道を歩き
順番に
挨拶をする
おはよう
おやすみ
ありがとう


きれいだよなあ ほんとうに あの子
しあわせにならないかなあ ほんとうに みんな
ずっと だれかが だれかのことを おもいだすから
なにも わからずに ただ おもいだすから
どうしようもない 暴力を そうやって くりかえすけれど
ねえ ばらばらに なって きみに 会いに
ばらばらに なって は きみに 会いに行けないから
ただ さびしいだけの からだで ずっと 
きれいだよなあ ほんとうに あの子
わらって くれないかなあ 
すこしだけ となりに いて
わらってて くれないかなあ
となりに いない ときも
わたしには ちから が ないから
そうして おもい も ないから
つよい もの も かんぺきな ものも
ぜんぶ うそ だから
すこしだけ どこかに ふれさせて
泣かなくたって いいんだから
ふれる あいだ 
わたしは きみを わすれる
きみは わたしを わすれる
だから だいじょうぶ
おしまいに しないで


手を
空に伸ばすのは
そこに
だれもいないからで
それを
きみにみていてほしい
だれもいない
ただ
だれもいない
それが
きみに
あげられる
ただひとつの
ことだから