ナマエ


すこし前までは、すべて通じ合える人に出会わなきゃいけなくて、出会えると思ってて、出会えなかったらそんな人生は悲惨だって思ってた。本当に。そうして、すべて通じ合える人が自分以外なのなら、世界、社会、世界、文化、そういう風に言ってしまってもいいくらいたくさんの人といっぺんに、通じ合うべきだと思ってた。けど、水がちいさい穴からこぼれるのを見て、そのままにする、感覚で、日々が過ぎる、水はなくならない、多分、眠っている間に雨が降る。バック、バック、点滅するものに留まりたいって彼女は言っていた。たとえば、海、知らないところで、わたしが知らない経験てやつをみんなするんでしょう?それが、辛くてたまらなかった砂みたいな夜があって、なんの染み?たぶん、汗とか、体液とか、そういう。しょっぱい。硬度がかわる部分を持ってる動物、ロバ、首をふる。眠ってる、今頃、彼は、固い会社の床の上で、眠っている、そこで、わたしは、足をかかえて、ニュージャージーで飲むソーダについて考える、ただれている腹を植物におしつけて、わたしがしらないけいけんてやつをするんでしょ、みんな、ひとりででんしゃにのるみたいに!水がこぼれないように指でおさえることは、もうない。それは、どこの水?たぶん、わたしには関係ない、自分を、抱えている、わたし。土に水が落ちるときもある。石を濡らすときもある。けど、手を離す、いつか。わたしは、わたしが、もうひとり、ほしかった。きちんとしたからだをもった、わたし、硬度がかわる部分を持ってる動物、それから、ヒレ、たてがみ、そんなのも、持ち合わせているわたし、と、のっぺりとしたぬるぬるの、この、わたし。触りあう、湿度、そこからまだらがひろがって、いつでも、違う色になる、布をひきちぎる爪もやわらかく、伸びる。細いグラスに入った飲み物が宙にういていて、ロバ、ロバ、首をふる、彼女が蛾になって、点滅するものに留まっては離れ、留まっては離れている。けれど、わたしは、わたしの中が、とても騒がしいことに気付いて、わたしの中が、毎日こぼれる色水や、破裂する肉塊、そうして、金属の匂い、水銀、そんなもので、まだらになり、断層がいくつもあることにも、気付いて、だから、わたしは、わたしを手放す遊びを手に入れた。ジェット・コースターで一瞬手を放すみたいに、わたしは、わたしを、一瞬だけ、ベランダから突き落とす、その瞬間、わたしはひとつ下の階にいて、わたしを受け止める、そうして、腕を骨折する、これは、ある、ひとつ、だけれど、とにかく、わたしはわたしを手放す遊びを手に入れて、そうして、わたしはわたしを責めて、目をつぶって、鱗やらたてがみやら、すべてを、手に入れた。通じ合うべきだと思ってた。けれど、わたしはわたしとも通じ合うことはできない。ねじくれている電車の窓からの風景は、すっかり、ねじくれている、から、眠りの中に浮き出る吹き出物すら、舐めることができない。けれど、彼は、眠っている、そのときの音が、わたしの喉からしている。わたしは、通じ合わない彼ら、文化、社会、世界?通じ合わない彼ら、すべてが、わたしのウチを這いつくばって、ときには皮膚にひっかけて、ちぎる、ことが、あることを、知っている。眠っている、眠っている、空は群青色、重なっておちてくる、最大級の塵、芥、ちり、あくた、眠っている、群青色に、起きだして、おしっこをしたあと、水をのむ。そして、ベッドに戻り、枕についた唾の染みを撫でる。本当に、誰も知らない。あの水がどこから来るのかも、いつ、涸れるのかも。