中空


男の人の手を引いていく
隣ではでんぐりがえしをして
ついてくる尻尾の長い猿
猿がたくさん
尻尾が曲線を描く
それはまるでちいさい炎
男の人は黒い裾を引きずって
口がすうすうする飴だよ
泣くかわりに
と言った


男の人は角を曲がると
急にしぼみはじめて
スピーカーから
僕の恋人の声がするからね
と言い
わたしの手にぶら下がる
スピーカーからは
渇いて小さい空穴を
すり抜けてくるような気持ちのする
若いのかしら老人なのかしら
と思われるような
声がした
僕は僕のことが好きになった
というような歌を歌う
声がした


神経質だから
頬をなでる
行ごとで
何の語も繋がずに
ラブレターを
かくよ
男の人が言う
彼は
神経質だから
頬をなでるんだ
そうするとね
彼は
とても
よくねむる


男の人は元通りの大きさに戻って
わたしは猿になっていた
細くて毛羽立った尻尾がお尻にあって
わたしは笑った
声をださないでにやっと
わたしは男の人の目をじっとみた
さよなら
神経質だから頬をなでて
男の人は困ったような顔をして
君は神経質じゃないよ
けどとってもきれいな猿だね
と言った
わたしはさよなら
いっとう小さい
けれどいっとうオレンジの
炎を毛羽立った尻尾で
さよなら