らせん


鉄棒を打っていた
握っていたとしても
閉じていたとしても
手は 鈍い
夜の空気は鉄くさくて
どうして忘れられないんだと
男はずっと言っていた
それは
父さんだったのか
それは
父さんだったのか
油にまみれていたの?
それは
インクにまみれていたの?
どこの道を通って帰るの?
父さんだったの?


ひきつって
わらって
ひきつってしか
わらえない
わたしの
うつくしいひと
わたしの
うつくしいひと
ひきつった
くちもとの
やわらかい
かたい髪を
噛むやわらかい
ひきつってしか
うつくしいひと
うつくしいひと


どうして忘れられないんだと
父さん
父さんだったの
それは
手をはなしたからだよ
手をはなして呼んだからだよ
振り返らない乗り物
かたい鉄を打って
うごけうごけって
わたしのこころを打って
うごけ
わたしのこころうごけ
手を 鈍い


わたしの
うつくしいひと
わたしの
目をシャッターにしないで
わたしの
瞬きをシャッターにしないで
だまって
ひきつってわらわないで
うつくしいひと
わらわないで
いいの


いい
水たまりを震わせなくて
いい うつくしいひと
髪についた虫の死骸を
そのままにして 
いい 音が
閉じられた口から して
こころを
手を 振るって
打つ 鈍い 音が
体中から 
鈍い


どうして
忘れられないんだと
父さん
その手で
窓枠をふるって
忘れないで