遠くで犬が鳴いている
わたしの中の木が倒れた
わらっている
わらっている
刃物がすいとるひかりを
わらっている
やわらかいものがこわかった
ひらかれるものがこわかった
木が倒れて
わたしの中の木は
なにもいわなかった
木だから
わたしの中の木だから
ふるえている
ふるえている
刃物がつけた亀裂に
ふるえている


やわらかいものがこわかった
けれど
きみが道におく手に
わたしの手を重ねたら
きみの手だってやわらかいよ
きみが敵になりうるなら
やわらかいところを
わたしは傷つける
やわらかいところを
かみちぎる
わらっている
わらっている
きみが敵になりうるなら
きみのことはもうこわくない
やわらかいものがこわかった
きみのことがまだこわいよ
きみの手だってやわらかいよ
手の上に手を重ねたら
やわらかい
わらっている
わらっている
ふるえている
ふるえている
きみに


わたしの中の木がたおれて
横たわったままいる
わたしの中の木の下から
ミミズが這い出して
わたしの中を横断する
横たわったままいる
わたしの中の木は
なにもいわない
木だからなにもいわない
わたしの中に
なにもいわない木が
横たわったままいる
色とりどりのミミズが
つぎつぎと這い出して
横断がずっとつづく
わたしの中の
遠くで犬が鳴いている


やわらかいものがこわかった
こわくて
きみの手を
にじむくらいにぎって
ちぎれるくらいひっぱって
ひらきかけた道に
ぶつかって
わらっている
ふるえている
わらっている
ふるえている
きみは敵じゃない
きみが敵になるのなら
きみは敵じゃない
きみが敵になるのなら
きみは敵じゃない
きみはわたしじゃない
きみが敵になるのなら
こわくないこわくない
こわいこわくない
きみを
にじむくらいにぎって
きみを
ちぎれるくらいひっぱって
夕焼けがない
わたしの中の木が横たわる
夕焼けがない
わたしの中に
きみを
つれていく
きみには
夕焼けをみせない
もう決してみせない


きみはわたしじゃない
きみはわたしの中にいない
わたしの中にいるきみはわたし
遠くで犬がないている
木はなにもいわない
木だからいわないなにも