ジャム




ここは真空で
だからここでは
息をしなくても
だいじょうぶ
ぜんぶのものの
角にひっかかって
たとえばガラス
ガラスのはまったビル
ビルのなかにある
はいいろの机
ゆびとゆびのあいだに
フックを埋め込んで
ぜんぶのものの
角にひっかかって
舌を口からだして
あわを立てる
息をしなくても
だいじょうぶ
いまは
すべてのものが
うえのほうの宇宙に
吸収されていく
真空の
あたしがきみと
いままでかわしてきた
ことばも
あたしがきみと
いままで
さわりあったからだも
脱皮して
ぜんぶのものの角から
まるいたまごみたいな
水滴が
おちるまで
息をしなくても
だいじょうぶ
ほそいべとつく
かぞえきれない
糸が
ここから
みえる
すべてのひとの
あたまに
まきついてつなぐ
あたしにあったこと
すべて
なかったことにはならない
けれど
だいじょうぶ
とまったままの海や
行がかわっていく手紙や
あたしの目は
機械の口元の音がする
あたらしい
フィルムを
まるっきり
あたらしい
フィルムを
くりかえし
ここは
真空で
だから息を
しなくても
だいじょうぶ
だいじょうぶ
ここは
真空で
よるのいろした
ここには
ずっと
いることができない
もやされる
あたしたちから
落ちた肉片の
においは
かぜにながされて
すべてのものの角が
まるいたまごみたいな
すいてきに
つつまれて
それがおちるしゅんかんに
ぜんぶ
おぼえていく
あたらしい
あたしが
吐き出される
とまったまま
ぼこぼこと
なみうつ
宇宙の
した


だいじょうぶ
息を
しなくても
ここは
真空で
だいじょうぶ
ここには
ずっと
いることができない


駅の
階段に
座って
かわいた
数千の
つばが
蒸発
する
足元を
じっと
みる
とまった
電車が
とまって
きみが
おりて
くる