つづき


風がめちゃくちゃ強くて
うちの前では地面が雨を弾いてる
なんかがあがってきたよう
ねえ
どうしよう


おなかのなかの
ミニチュア階段を
もそもそと
手の長い毛むくじゃらが
あがってくる
イメージで
カナちゃんははしっこにいたわけではなかった
カナちゃんは
はしっこじゃなくて
まんなかにいた
そういうわけではなかったの
カナちゃんに
ずいぶんふりまわされた
ぶんぶんまわされて
ときどき手を放された
そのたびにどっかの角に
からだを打ちつけたけど
手の長い毛むくじゃらが肩を
ちぢこめて
もう一段上がっていった
カナちゃんは
だいすきだよ
だいすきだよって
言っていたし
わたしだって
カナちゃんのこと
だいすきだよ
だいすきだよって言っていて
でも
顔がパンパンにはれていた
カナちゃん
どうしてか
楽器は悲鳴みたいな音たてる
反芻して
草をちぎるみたいな音
たてる
カナちゃん
カナちゃんは死んでるよ
ただ息してるだけだよ
カナちゃん
カナちゃんは甘えてるよ
カナちゃんだけがつらいわけじゃない
カナちゃん
カナちゃんは不幸ちゃん
わたしは
カナちゃんに
言ってやりたい
けど
口にだすと
胸糞悪くなるような
台詞を
引き出しにためた
踝にある



ばい
なんか

あがってきた

やば

やばいよ
これ
マジで
マジで
やばい


大好きな映画のなかで男の人がガリガリとレンゲを噛み砕いて食っていた
おもいだすとくらくらする川や海がある
濁ってるかどうかなんてここからは全然わからないよ


顔がパンパンにはれている
からだの中からのアザで
足や手を抱えてる
わたしたちは
風に向かってった
明日になれば
カナちゃんは
わたしのスイッチをオフにする
わたしは
カナちゃんのスイッチを隠す
そうやって
髪の毛をなでつけて
風に向かってった
子どもが毛むくじゃらにでくわして
泣いたあと笑うみたいに
わたしたち別々に
歯をきしきしいわせた


やばいよね
ほんと
なんかが
あがってきてさ
なんかの
正体は
一生わかんないんだよ