ティア

びっこをひいてあるいていく
影にも名前をつけてあげるなんて
やさしいひとと
いわれて牛は黙った


ことばなんて
わたしの足とおなじくらい
不自由
だって
わたしのからだもことばも
いつかは
切り紙の人形みたいに
穴ぼことつながって
なくなる
祈って
わたしが
わたしとしてあることを
求めないでいいように
祈っている


キリエ
手をつなぐときの
気持ち悪いほどの汗を
覚えていて
そしてそれも忘れて
パンに登って
水たまりを渡ろうとした
女の子の鼻に
つんとした塩辛い
細長い足を交互に出し入れした
キリエ
わたしを
忘れてしまって
手をつながなくても
塵みたいにして
底をみんなして浚う


黙った


首をかしげて


女の子の鼻から薄い血がながれてパンは固くなった


ねえ、鋭いひとたち、あなたたちの、パンパンに膨れたお腹を、突き破って、うまれてくる、感傷で、


パンは固くなった、もう、決して、食べられない、わたしたちの歯は、それほど弱い、


美しい足首に、すがりついて、泣けばいい、そうしたら、パンは、溶けて、なくなってしまうから、


黙った


月が牛を照らすよ、キリエ、