かわ


坂を下るわたしたち
骨をおさえながら犬を連れ坂を下るわたしたち


たたかいは塔の上で行われている
塔の壁には数千の武器が留められている
たたかいのまえに小指で瞼に朱をいれる
わたしたちはからだに模様を描く


犬は匂いを嗅ぎ子どもが坂の途中で転び泣き出す
模様が描かれた腕が犬や子どもに触れ巻きつく
浮き出た血管が模様をびくつかせる
なんという冬なんという春
塔では季節がめぐらない
だからわたしたちはからだに模様を描く
わたしたちは模様について話す
雲や雨や陽や土について
わたしたちは模様について話す


わたしたちはいつか渦を巻きかえっていくので
髪を結い背に長く垂らす
わたしたちの腕に巻きつく線は胸にのぼる
犬は足元の匂いを嗅ぐ
子どもに描かれたばかりの模様が赤く腫れ陽に透ける
なんという春


地上で武器を持ち拳を握ることはできない
わたしたちは背に武器をもてず
一匹のいきものを飼う
尾のあるいきもの
わたしたちは髪を結い
いきもののうえに長く垂らす
わたしたちの武器はあるべきいきものに似る


塔で自分の武器を取るとき迷うことはない
たたかいのまえに構えるわたしたちはあるべきいきものに似る
指で爪のかたちをつくって静止するわたしたちはかたち
浅黒い塔の床に頭をつけ武器を壁にもう一度留める
坂を下る
塔で負った傷跡をわたしたちは触りあう
坂を下るわたしたち
ごつごつと肩の骨がぶつかりあう
たたかったあとの皮膚の裂け目から子どもがうまれる
それがわたしたちのたたかいのおわり
わたしたちは坂を下る
傷跡を触りあい骨を打ち合いながら


子どものからだに模様が増え
子どもにいきものがあるようになるとき
わたしたちはまた塔にのぼる
わたしたちはそのために髪をほどき結いなおす