ゴル参加 ルーツ


手の先がつめたい
爪を切るたびに
わたしはわたしを二乗する
おかあさんはおかあさんを二乗する
おとうさんはおとうさんを二乗する
つまり
わたしたちはわたしたちを二乗する
ルートこいびとが
ベッドでおなかをだしてねむっている
ルートおかあさんが
受験問題集をやぶってなげつける
ルートおとうさんが
青年だったころの写真をなでている
朝夜昼
手の先がつめたい
二乗された
わたしが熱をすこしずつ
わけあっているから


おとうさんが
木の影で
ギターをひきながら
日米安保に反対を
している
おとうさんは
最後に
礼をして
木を削り取っていった
おかあさんが
それを
うけとって
日米安保のことは
なにもいわず
木を
運んでいった
たぶん
そんなふうにして
わたしはうまれた
ただしくは
まず
おにいちゃんがうまれて
わたしがうまれた
わたしたちはフィルムだった
生えてきたわけではなくて
うつしとられてきた
わたしたちはわたしたちを二乗する
だから
あなたはひとを憎んでも大丈夫です
あたまのなかなら殺人も強姦も大丈夫です
そう理由づけて
わたしはフィルムをかくした
ロックとかパンクとかアンダーグランドとか
ニューウエイブとかノーウエイブとか
ジャパンとかバウハウスとか
ノーニューヨークとかロンドンコーリングとか
やーさーしくーなりーたーい
たくさんのフィルムをかくした
わたしは二乗されたけれど
ひとを憎んでも大丈夫じゃなかったし
あたまのなかなら殺人も強姦も大丈夫じゃなかったし
大丈夫なことなんてたぶんなにひとつなかったけれど
わたしは
まだ二乗されて
森を抜けて都市を抜けて
また家に帰りつづけている


手がつめたい
さみしくはない
うそだ
ほんとうは
さみしいし
ずっとはなしていたい
わたしのはなしを
ずっと
おとうさんや
おかあさんや
すきなひとたちの
かおにつばをはきかけるように
わたしのはなしをぶつけつづけたい
けれど
あたまのなかなら殺人も強姦も大丈夫なんかじゃないように
だれかのかおにつばをはきかけるきもちをもつことも大丈夫なんかじゃない
手の先がつめたい
さみしくはない
もつだけの熱は
二乗されたわたしと
わけあってきたから
森を抜け
都市を抜け
田舎を抜け
駅を抜け
商店街を抜け
家に
帰るまでずっと


わたしは
わたしを
たぐりよせる
おかあさんも
おとうさんも
たぐりよせる
わたしを
たぐりよせる