アムリタ


きみはさかな
きみにはほっそりとした手があり
きみにはぬめる鱗があり
きみにはゆらめく尻尾があり
真っ二つにされた
きみの断面はひくひくと
心臓に同期して動く
真っ二つにされた
きみの断面は
まるで
帰り道にすべての人が
みるわけのわからない
色の空のよう


あいしていたのか
そばにいてほしかったのか
みがわりにしたかったのか
あいしていたのか
たべつくしたかったのか
なでられたかったのか
りかいされたかったのか
あいしていたのか
すきだったのか
ころしたかったのか
いかしたかったのか
もう
わからない


ただきれいだね
あたしの腸がいらないものを
外にだそうとして
腸が外気にさらされて
あたしのあとを
ついてくる
ずるずると
あたしは腸をひきずって
あたしはあたしを
ひきずって
ものすごいにおいがして
ただ
きれいだね
あたしの吐き気は
あまい


口の中を噛んでいると
布がかけられた音が
かたかたと聞こえてきた
脅えていたきみには
表情はない
卑怯な筋肉が
鉄線をこえていく
あたしは
随分しろくなってしまった
あの老人に名前をコールされたいの
そして
あたしはでていく
まぶしすぎてくらい
台の上に
皺と皺のあいだに透ける
あおい血管に触れて
濡れているのは
てのひらと
きみの
断面


しろくなった老人の目の下に隠された唾をのみこむ振動
あたしの名前を呼んでそしてきみの断面がかわいていく
すこしずつきみの断面の動きがやんでいく
あたしの名前を呼んでそしてあたしは手をとって
きみの断面に頬をおしつけて
あたしのあとをついてきた腸が
わけのわからない色の空を反射する
あたしの名前を呼んで
あまいみず
あまい
みず