フリー


息がすこしくるしい
と言って
手をふる男が
息がすこしくるしい
けど
と言ってから
ネコと旅の
話をする


遠くばかりみているインストゥルメンタルミュージック
あたしはうずうずとしている
だまっていることができなくて
あたしは話しはじめる
ネコじゃないものと
旅じゃないものについて
けれど
そのはなしは
イヌの話ではなく
映画館の話ではなかった


男は怪訝な顔をして
咳き込みながら
今度は
戦争と鯨の
話をする


朝飲んだ頭痛薬が
ずっと喉につまっているような
気分がするのは
どうしてだろう
あたしはうずうずとしている
灰色の明日を
楽しみたいから
戦争じゃないものについて


からっからの花びらが
部屋の中に
おちている
ポップコーンの下に
沈んだかたいトウモロコシを
奥歯で噛み砕く
からっからの花びらが
埃や砂を運んでくる
そうしたら
ここは掛け値なしのアメリ
きみの
鯨の刺青のうえに
ひろがったじんましんを
からっからの爪で
掻けば
インストゥルメンタルミュージックが
真っ赤に染まって
その上には星が


あたしは
シンボルを
痒がって
あたしは
シンボルを
痛がって
あたしの
目の周りは
痒くて
真っ赤になって
背中は
ぼつぼつ
だらけで
きみは
息が苦しいかも
しれないけれど
あの
まっさらな
布の下にだって
膿がたまっている
ほんとうは
ぼこぼこと
うねってるんだ